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BIMが切り開く新たな創造性 第2回〜広島工大杉田宗インタビュー〜

広島工大でBIMを使った先駆的な建築教育をおこなっている杉田宗先生にBIMと創造性についてインタビューを行いました。BIMが切り開く新たな創造性 第2回はその内容をお伝えします。

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JIA東海支部機関紙ARCHITECT連動連載企画

広島工大でBIMを使った先駆的な建築教育をおこなっている杉田宗先生にBIMと創造性についてインタビューを行いました。BIMが切り開く新たな創造性 第2回はその内容をお伝えします。

杉田 宗
Twitter:https://twitter.com/sosugita
HIROSHIMA DESGN LAB / 杉田三郎建築設計事務所 / ヒロシマBIMゼミ


杉田先生インタビュー

横関:お忙しいところありがとうございます。では早速始めたいと思いますが、第1回の内容を読んで内容を考えておくとのことでしたが、何かありますでしょうか。

杉田:そうですね。情報がデジタルに変化して今、建築教育にも大きな変化が求められていると思います。今日は広工大でやってることを中心にお話させていただくことで、1回目の話にもつながっていくと考えています。

横関:ありがとうございます。では、最初に、BIM化、建築のデジタル化がもたらしたものは何か、次にそれによって建築がどう進化するのか。そして、デジタル化が生み出す新しい創造性というものがあるとすれば、その創造性をより引っ張り出すにはどうしたらいいか。最後に、デジタルを現実の世界、社会と接続させていくには、どうしたらいいかという話をお聞きしたいと思っています。よろしくお願いします。

杉田:わかりました。

1、BIMが建築に何をもたらしたのか。

横関:では最初に、建築のBIM化、デジタル化がもたらしたものは何か、お考えをお聞かせください。

杉田:デジタル化となるとすごく広くなるので、まずはBIMに絞って話をしようと思います。やはり、BIMによって設計の方法が大きく変わると思っています。今までは図面を書いて、それをコミュニケーションのツールとして使っていましたが、モデルを作ってそこに情報を入れていく形となると、図面はそこから吐き出されるアウトプットの一部でしかなくなります。

建築BIM推進会議のモデル事業の一つとして進めたプロジェクトにおいて、仮想プロジェクトの設計を設計者だけでなく、設計施工のチームを作りBIMを活かした協働をやってみました。そうしたら、今まで話題にもあがらなかったことまで色々と話しながら、プロジェクトを進めることになりました。

例えば、どのようなモデルの作り方をした方が積算に活かせるとか、どのような属性情報が有用なのかなど、BIMを活かして協働するには後々モデルや情報を使う人のことを考えて入力しておかないと意味がありません。施工会社が実際どのように仕事を進めているのかや、どう人を育てているのかなど、そう言うところまで話が及び、建築をつくる関係者がもっと深く結びついて仕事をやって行かないと良いものができないと考えるようになりました。

情報化によって建築業界全体に大きな変化が求められている場面に差しかかってきているかなと思います。ちょっと参考の図を出してもいいでしょうか?

横関:お願いします。

杉田:これはなぜデジタル教育をちゃんとやらないといけないのか説明時に使う図ですが、多分今の話にも繋がってくると思います。

©︎so sugita

デジタル以前はアウトプットが、例えば図面、パース、模型だとすると、それぞれに道具があって、その使い方を学び、図面を描いたり、パースを描いたりしてました。紙に鉛筆でインプットすることがそのままアウトプットになっていたので、インプットとアウトプットは非常に近い関係にあります。

言い換えれば誰かのやり方を習うことで身に付く技術だったと僕は思ってます。それが、例えばCADだとか、3DCAD、CGなんかが出てきた時代に変化が生まれます。インプットとアウトプットの一対一の関係に変わりはないですが、インプットとアウトプットの距離が出てくる。

©︎so sugita

コンピューターの中で描かれたものは、コピーされたり編集されてプリンタからアウトプットされるようになります。線の太さの調整など、細かな設定をもとにアウトプットされるわけですが、ソフトが複雑になるにしたがってインプットとアウトプットの距離はどんどん離れていきます。ただ単に、誰かからやり方を習うだけでは学べないスキルが出てきた時代だと思っています。

©︎so sugita

これが、BIMになると、インプットが一つに統合される形に変化します。この時、BIMにインプットされるのは、図面でもなければパースでも模型でもない訳です。BIMに統合された情報をうまく活用することで、図面になったりパースになったりすると言うことです。アウトプットまでの手順がすごく複雑になってしまい、誰かのやり方を真似してたら出来るようになるレベルではなくなっていると考えます。

©︎so sugita

ネガティブな要素としては、インプットとアウトプットが離れたことで教えたり学んだりすることが難しくなってる点があります。逆に良い点は一つのことから、工夫次第で様々なアウトプットが出せるということです。ここをしっかりと理解をした上で、デジタルの技術を活用しないといけないと考えてます。

横関:とてもわかりやすいです。

杉田:はい。自慢の図です。(笑)

横関:インプットとアウトプットの距離と言う捉え方が分かりやすい。手描きにどしても拘りたい時って、ここがゼロ距離なんですね。つまり身体性の延長線上、それも全く同じ位置。これが引き離されていくことに対して、抵抗してしまう。

ただ今からはBIMから始めていく世代が台頭してくる。今、杉田先生が教えている教え子さんたちがそうです。このプロセスが当たり前と考える人たちにとって、それは距離があると言えるのでしょうか。

杉田:最初からインプットからアウトプットまでの距離が遠いので、なかなかアウトプットを理解しない学生がいる、、、というのが一番の問題です。手書きでやってる時には、みんな誰かの図面をトレースして、とりあえず今何をやればいいのか、また、どの程度のレベルのアウトプットを目指すべきかが簡単に理解でき、すぐに身についた。それがBIMになり教えるのがすごく難しくなってると思います。

それへの対応として、我々は図面のところも力を入れてますが、実は模型をすごく重視しています。早い時期から3DCADを使わせるので、模型も三次元モデルから作る訳ですが、デジタルファブリケーションも活用しながら効率よく模型やモックアップを、とにかく沢山作るような教育をやっています。

横関:なるほど。SNSで見ましたが、学生たちがビルディング形状を幾つも作り、風を当て、効果を実験していました。あれを見るととても大きな可能性を感じます。デジタルだと絵でしかなかったものが立体としてで実際吐き出され、それが効果があるか、肌感覚で検証できる。

杉田:そうですね。実はあれはコンピューターで風のシミュレーションをやった後の形なんです。

©︎so sugita

GrasshopperとButterflyというプラグインを使えば風のシミュレーションができるので、それを使って自分達が作っているタワーに当たる風の動きを確認します。シミュレーション結果を見ながらモデリングを詰めていき、最終的には3Dプリンタで出力して、2本づつ風を当てて最も安定した形状を決めるトーナメントをやっています。シミュレーションの結果から、形状を最適化させるところまではなかなか出来ないですが。デジタルとアナログを行ったり来たりすることを意識的にやっています。

©︎so sugita

横関:BIMは立体データを持つのでシミュレーションが行いやすくなるというのは、当然ありますね。重要なのは、それがどういう効果をもたらすかが可視化されることかと思います。可視化されるのにわざわざ立体で吐き出させ、リアルに実験させる理由はなんでしょうか。

杉田:そうですね。やはりシミュレーションだけで結論づけるのは、なかなか難しいかなと。多分すごい精度で出てるとは思うのですが、実際に物質化した時に初めて気づくことは沢山あると思います。私たち自身実際にこの実験してみて思わぬことに気がつきました。シミュレーション上で、本当に風がきれいに流れるような形を考えた学生たちがいたのですが、最初に負けちゃった。それの理由は、空気の流れが隣のタワーの形に影響を受けたからなんです。

横関:それは興味深いですね。

杉田:シミュレーションだけ見ていてはダメだなと、僕はすごく実感して。

横関:シミュレーションでは考慮されていなかった周囲環境が影響を及ぼしてしまった。建築を単体ではなく、周囲との関係性も含めて設計をしなくてはならない。パラメータは増えますがそのシミュレーションが可能になったとも言えますね。

杉田:ここで3Dプリントで試作を作ってるのも実はシミュレーションと言えます。シミュレーションには段階があり、ものすごくいろいろな形や可能性をコンピューター上でシミュレーションする段階から、方向性を絞り模型やモックアップを作りながらよりリアルに近づいていく段階へシフトしていきます。全てをデジタルへで完結するのは難しいと思っています。

横関:すごくたくさんのバリエーションモデルを作るお話が出ましたが、デジタル化されることによって、やりやすくなったとかいうことはあるのですか。

杉田:Grasshopperを使い、パラメーターを変えることでたくさんのバリエーションを作ることは簡単にできるようになりました。次の段階としては、たくさんの中から優れたデザインを選ぶところまでコンピューターの処理能力を活用することです。ジェネラティブデザインと呼ばれる手法がこれにあたります。

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例えば、3〜4年前に研究室の学生が卒業研究で取り組んだランプシェードがジェネラティブデザインの例になります。3Dプリンタやレーザーカッターが普及して、普通の人でも自分でものづくりができるような時代になりましたが、そういったデジタルファブリケーションを活用したものづくりをテーマにした研究です。

ここで彼が着目したのは、普通の人にとって、自身でデザインして、デジファブで加工できるデータを作るのはほぼ不可能だと言うことです。決まったデザインであれば、それ用の加工データを用意しておけば良いのですが、お客さんが好きなデザインに合わせてその都度加工データを作ることは結構大変です。また、パラメーターをいじってデザインすること自体、デザインの自由度が高すぎて、何が良いのか決められない原因にもなりうる。

そこで彼が作ったのが「対話型遺伝的アルゴリズム」を使ったランプシェードをデザインするプログラムなんです。ここにはベースとなる3つ型があり、それぞれの型の中に設定された変数を変えることで、サイズを変えたり、フィンの数が変わるシステムなんです。

©︎so sugita

最初はランダムにいくつかのデザインが提案され、その中からユーザーが好きなものを選んでいくと、形がどんどん絞られていくという仕組みです。

コンピュテーショナルデザインというのは非常に広い分野ですが、それは大きくパラメトリックデザインとジェネラティブデザインの2つ分けられると考えています。

パラメトリックデザインは自分でパラメーターをいじって色々な調整をするデザインのやり方。ジェネラティブデザインは、たくさんある選択肢の中からコンピューターにいいものを絞らせるデザインのやり方と考えていて、このランプシェードの研究は、後者の例です。

横関:設計をするのが、デザイナーや、設計者だけではなくて、一般の人でさえ、デザインというプロセスに加わりやすくなってくるという話でもありますね。

杉田:そうです。

2、BIMが建築をどう進化させるのか。

横関:ちょっとこの話から順番に展開させたいのですが、このようなさまざまな可能性が訪れた時代で、BIMというのが建築にどういう影響を与えていくのか。例えば、建築自体がどう進化するのか。シミュレーションがしやすくなったり、さまざまなパラメーターでいろいろなパターンが簡単に作れるようになった。さらに、コンピューターがデザインの進化に関わってきてくれるとなった時に、今後どう進むのか、なにかその辺のことをお話していただけるといいかなと思います。

杉田:そうですね。設計の業務が3次元になって、誰でも理解しやすくなるというところはありきたりと思うので、あえてそこは外してお話しようと思います。一つは今ここに出てきたジェネラティブデザインだと思っています。Revitの中にも実はこういう機能が入ってきてますが、ジェネラティブデザインを使うことで、今までのように人間の創造性や経験則をもとにデザインされてきたものとは違うものが生まれてくる可能性があると思っています。建物のボリュームや配置など、これまではスケッチしたり模型をつくることで検討していたこととは全然違うものが、コンピューターを使った多角的な検討を通して出てくるようになると思います。これはBIMに限った話じゃなく、コンピュテーショナルデザイン全体の話になっちゃうかもしれません。

©︎so sugita

例えば、我々が設計させて頂き2019年に竣工した「かも保育園ハッチェリー」がその一例です。真南に向いてる敷地なのですが、設計の初期段階でジェネラティブデザインを使った検討を行っています。

©︎so sugita

どういったことをやってるかと言いますと、夏にこの建物のボリュームが園庭に大きな影を出しながら、冬には建物の南側に出来るだけ日光が当たる最適な形を見つけ出そうとしました。数万通りの形の中から成績の良いものを掛け合わせ、優秀な解を導き出した上で、それを並べてこの建築に相応しい形はどれなのかを見つけていくってことをやってます。

ただ、結果的には、変哲のない左上の形が一番良かったのですが。

横関:それは面白いですね

杉田:その形をそのまま使ったという訳ではないのですが、複雑に絡み合うパラメーターを調整しながら設計をしていく場合は、人間の思考では処理しきれない部分が多くあります。ある程度簡略化したり、経験則で答えを出したりする場合がほとんどですが、コンピューターの計算能力を活かすことで、複雑なパラメーターをそのまま処理することもできます。こういったことがどんどん広がっていくと思ってます。

風のシミュレーションにも挑戦しています。今の段階では、シミュレーションを走らせてその結果を確認したり比較する程度ですが、上記の日射シミュレーションのようにジェネラティブデザインの中に組み込むことができれば、風に対してより良い解をコンピューターに見つけさせることもできるようになると思います。

©︎so sugita

横関:ありがとうございます。先ほどのパターンを検討は、結局スタート、元の形に戻ったみたいな流れですが、それは、いろいろ検討した結果、これが一番だったと証明されたとも言えるわけですね。そして、驚くのは2万パターン、3万パターンをコンピュータに検討させたこと。もう人間の限界完全に超してますね。

杉田:超えてますね。

横関:そこに新しい可能性があるような気がします。あと、風のシミュレーション。見えない状況が可視化される。人間が見て分かる状態にしてもらえる。それが案を検討するところに組み込まれて一つのパラメーターとして機能する。これは結構革新的な話ですね。

杉田:そうですね。建築を考える上で、環境への配慮は絶対に外せない要素になっています。今後は、こういうプロセスを踏まないと説得性のあるデザインは出てこなくなると思います。

横関:かっこいいデザインにした案を作っても、クライアントが環境チェックプログラムを走らせ、全然ダメだよと指摘されるような時代が来たと言うことですね。後付けでやるのではなくて、最初からそれを行い新しいデザインを産み出す。

杉田:そうですね。最近はGrasshopperのプラグインなどが充実してきたこともあり、ボリュームスタディのところで結構やります。

横関:それが建築の新しい可能性に繋がっていますね。

杉田:はい。

横関:このような建築が進化するような環境が生まれてきた、というところなのですが、創造性をコンピューターに関わらせるとイマイチつまらないものが出てきたりとか、自分たちの可能性を制限されるんじゃないか意見が出てくると思うのです。

3、創造性をどう生み出していくのか。

横関:そこで、創造性というのをどう生み出していくのか。杉田先生が考える創造性とは何かというのをちょっとお聞きしたい。

杉田:そうですね。その質問が一番難しい。僕はそんなに創造性豊かなタイプではないないと思っていて、スケッチでものすごい建築を考えるようなタイプの建築家とは程遠いところにいます。そう言う卓越した創造性を少しでも補うために、使えるものは全部使うというスタンスなんです。だからコンピューターの処理能力でできることをしっかりと活用して、人間の創造性を拡張させていくことに興味があります。だからデジタルによって人間の創造性が失われるとは思っていません。

横関:なるほど。先ほどの学生たちがいっぱい作ったビルディングタイプがたくさん並んでいるところを見るだけで、すごい創造性が生み出されているように見えてしまうんですよね。

杉田:見えてしまうように見せるのが僕の得意なところかもしれません。(笑)

横関:そこにやっぱり何かあるような気がするんですよね。新しいものが存在するのではないかと。偶然なのかもしれませんが、次々に吐き出されるような環境があるというのは、創造性に対して何か大きな影響を与えるのではないでしょうか。

杉田:それはあると思いますね。先ほどのジェネラティブデザインの話に戻りますが、定量的に定義できるいくつかの条件の中で一番良いものを見つける場合には、コンピューターの処理速度にはかないません。創造性をどういう風に定義するかで話が食い違うかもかもしれませんが、0から何かを創り出す部分以外は、コンピューターによる創造性の拡張が様々な形で進んでいると思います。

私の大学院時代の作品を使って説明した方がいいのかもしれません。大学院の時には群知能の研究をしていました。

©︎so sugita

鳥の群れや魚の群れの動きをコンピューターの中で再現して、こういったものを使って建築とか都市を作れないか、という研究をしていました。

横関:なるほど。

杉田:設計課題として与えられていたのはペンシルバニア大学の建築学科の新しい校舎で、設計の手法としては群知能を使いなさいという課題でした。アメリカの建築学科の建物で代表的なものの一つにミースのIITクラウンホールがありますが、これはミースが提唱したユニバーサルスペースを建築の教育の中で使っている場所です。自由でフレキシブルな空間が広がっていますが、50年60年使っていると使われ方が固まってきたり、いつもごみが集まるところがあったりと、人の行動によって空間の均質性は失われ、ムラみたいなものができています。もしもそれが長い年月の間に人間によって繰り返し行われた行動で定義されてきたのではないかと仮説を立て、その部分を群知能で作ることで設計を進めています。

横関:はい。

杉田:蟻もフェロモンでオシリから匂いを出して、いろんな情報を周りに伝えながら群として行動をしています。そういったことをコンピューターの中に再現して、それを設計手法として取り入れています。ここでは、人間を学生と教員という2種類に分け、学生は先生に惹かれるような形でグループを成して、いくつかのアクティビティーを行う仕組みになっています。この辺が最初に作ったプログラムですが、学生が教員の周りに集まってグループを作ると、そこでフェロモンが放出され、同じアクティビティをしているグループを引き寄せるということをやっています。

©︎so sugita

杉田:これだけだとなかなか建築にならないので、フェロモンの濃さが濃くなると、そこに建築の部材が発生する仕組みに発展させてます。また、その建築の部材もシンプルな知能を持っていて、自分の向きを絶えず変えることができます。生成された後、ちょっと角度が変わるのは、周りのグループや、周りのスティックを見て、自分がどちらに向けばいいのかっていうのを決めてます。これがそのダイアグラムです。

©︎so sugita

杉田:横に向いてるものの中にぽつんと生まれたら、周りに従って、自分も横に動く、そしてスティックの向きによって空間の作られ方が変わっていきます。そういったものを最終的には敷地に置いていくのですが、敷地には色んなポイントがあります。ここは道路になるところ、ここは入り口になるところといった具合に敷地の中に埋め込まれた情報を参照しながら、エージェントが動きながら空間を奪い合いながら建築が作られていくようなことをやってます。

©︎so sugita

杉田:最終的にはこんなものになってます。ぼんやりですが空間の輪郭が作られています。これはパース用にちょっと綺麗にしたものですけれども、入り口のロビー空間がステックの集合で作られています。

©︎so sugita

杉田:あとは環境、特に方角ですね。方角に合わせて光を入れたいところはこう透明のスティックになっていて、それ以外のところはソリッドの色になっていたりなど、かなりコンセプチュアルな作品ですが、こういったものを作っていました。このプログラムの中では、2000体くらいのエージェントが離散的に動きながら空間を作っている。

もう完全に線形に物事が考えられるのではなくて、同時多発的に様々な空間が定義されていく。コンピュータを使った創造性って、こういうところだろうと思っています。自動運転も、安全性について色々な議論がありますが、あれって様々なセンサーやカメラが何台も付いていて、常に全方向を見ながらチェックしている。僕ら人間は2個しかない。もちろん経験とかそれ以外の感覚を動員して危険を察知はしていますが、何か起きてるのかを把握するための技術は、もう人間の能力を超え始めているように思います。僕は創造性のところでもこのような技術を活用して、人間の創造性を次のレベルに押し上げる必要があると思います。

横関:いくつか質問があるのですが、まず、このすごく興味深いシミュレーションというか、作品ですけれども、先ほど2000人ぐらいのエージェントが動いていてというお話がありましたよね。つまり、そこに起こり得ることという一つのプログラムがあって、もう一方で物を構築するっていう構造的なプログラム。つまり、それが2つが結びつくとこういう形が生まれるってそういうお話ですよね。

杉田:そういうことです。ベースになっているのは動き回っているエージェントで、彼らがグループを成して空間を取り合いながら、空間を定義しようとしている。その行動の形跡としてフェロモンが残され、そのフェロモンが物質化している感じですね。

横関:北欧の方だったと思うのですが、面白い公園の計画を聞いたことがあって、完成時に公園全体が芝生が張られてる。最初、通路も何もない。で、1~2年ほっておくとですね、人が歩くところが芝生が剥げる。そこを舗装し通路にしたいうのを聞いたことがあります。多分、これはコンピューターがやってるシミュレーションを時間をかけてアナログでやったということかなと。エージェントの動きを可視化させるために、全部芝を張って、そこがはげることによってどういう動きをしてたかっていうのをシミュレーションした。

杉田:そうですね。

横関:面白いと思ったのは、そのシステムを作るっていうところに建築家というか、デザイナーが関わっているだけで、結果に対してはその人たちが作ったわけじゃないというところです。ここがすごく大事な気がしていて、杉田先生のこのプログラムもあの形を作る前提条件には関わっているけど、最終的に生み出されたものに関してはある程度クリエイターの手を離れているというか、より生物的というか、自然の形に近い。

ここが今までとだいぶ違ってくるんじゃないかなと。直線上にやるっていうのは、そこの行き着く先というか根元には一人の建築家の考え方がすごい力を発揮してるはずなんですが、それがこういった新しい形にシフトしていくと。

杉田:建築を作るためのインプットは、図面を描くための線でもなく、BIMを作るための部位でもなく、その建築を作るためのルールであると言えるでしょう。さっきのプログラム、僕は設計図を描かず、ずっとプログラムをいじっていました。でもそれはアウトプットを見ながらプログラムをいじってるんです。生成されたモデルから断面を確認してどんな構成の空間がつくられているのかをチェックしてまたプログラムをいじるという流れです。おかしいですよね。冒頭のインプットとアウトプットの距離の話に近いですが、もっと建築の根幹に触れる話だと思います。

横関:なるほど。

杉田:あとはどこでプログラムを止めるかっていうのがキモだと考えています。スタートボタンは誰が押してもいいのですが、ストップボタンは誰がどういう意思で押すかで結果が変わってきます。こういうところにコンピューターの能力を超えた創造性があると思います。

横関:最初の枠組みがつくられる。そこからさまざまなものが吐き出される。それを見て、もともとの枠組みを直すというフィードバックがかかる。これが繰り返され進んでいく。そして、どこで止めるかっていう問題が出てくる。結局のところはすべてに人が関わってるからこそ、そこに創造性がある。こういうふうにも言えるということですね。

杉田:そうですね。

横関:やっぱり人間の手を離れない?

杉田:人間の手は絶対離れないと思う。まあ、最近画像生成AIのMIDJOURNEYとかがで出てきて、これまでに無かったAIによる創造性が確立されつつあるなと思うのですが、我々のこの作品も含め、手塩にかけてやっと動き始める感じですよ。

横関:AIが広がってきたときに、次のステップが来ると思うのですね。

杉田:そう思います。

4、社会とどう接続させるのか。

横関:最後に、このようなクリエイティビティが生まれ、いろいろなことにチャレンジできるようになった今、これを実際の社会に接続させ、活かせているのかというと、まだ本当にごく一部ですね。

杉田:そうですね。

横関:今後、実際の社会の中に、この知見を活かしていくにはどうしたらいいのかというところを少しお話しいただきたい。

杉田:2010年に今日紹介した修士研究を終えてアメリカから帰ってきました。日本でコンピュテーショナルデザインを実践していこうと考えていましたが、なかなか思う様にはいかなかったですね。。帰国後すぐに竹中工務店の国際コンペのチームに入って、そこで複雑なモデリングなどの仕事やらせてもらっていたのですが、あの竹中の先鋭たちが集められたコンぺチームでも、まだ3DCADのスキルをもった人は居なかった。これは建築教育の問題だなと思って、そこからどっぷり教育に入り込んだというのが今の状況です

横関:なるほど。

杉田:だからまずは3DCADやBIMができる人を増やさないといけないし、それをベースにいろいろな新しい考え方を独自に展開する人たちを増やしていかないと、僕が思っているような創造性の拡張は起きないと思っています。それを効率よくやるのが大学における建築教育で、まずは土台作りを1〜2年生の授業でやり、それの発展版を研究室でやる。それと並行して、設計事務所で実践的に建築に反映させていくという仕組みをつくっていきたいと思っています。正直、僕一人が実際に手を動かしてやったところで出来ることは知れているので、人を育てて10人とか100人がこういったことをやっていくような、そういった場所にしていかないといけないと思ってます。

横関:ありがとうございます。まずは若い人たちの教育の段階でこういうのに触れて、それを理解して社会に出ていってもらうということが大事だということ。もう一つはやはり、その数が多くないとなかなか世の中に広まらない。杉田先生がどんなにお一人で頑張ってもやっぱりできることの限界があると。

杉田:そう、無理。

横関:何か枠組みというかベースというか思想というか、潮流と言われるようなものを生み出さない限りはなかなか普及まで至らない。

杉田:そう思います。僕はその入り口がBIMになればいいなと思っています。デジタル化をみんな望んではいるのだけれども、実務においては今やっていることを変えるのはすごく大変なことですし、自分の業務に反映して見返りがないとなかなかデジタルに踏み込めない状況だと思います。まずは実務でBIMが広がっていき、設計の仕方や考え方が少しずつ変わりながら、そこにもうちょっとコンピューターを使った設計、コンピューターを使ったデザインというものが入っていけばいいかなと思ってます。

横関:時間になりましたのでこれで終わりにしたいと思います。貴重なお話、ありがとうございました。

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参考


進化するデザイン手法、「ジェネラティヴデザイン」

ジェネレーティブ デザインとは | ツールとソフトウェア | Autodesk

AIはデザイナーの役割をどう変えるのか:A.D.A.M 第六回レポート 〜ジェネラティブデザインの実践とプロトタイピング〜 – FabCafe Global

群知能 – Wikipedia

AIや群知能が取り組むべき重大な課題 – F-Secure

「群知能」の研究から、社会を考える〜栗原聡・電気通信大学教授

人の「直感」を使い万人の利益を導く、群知能「スワームAI」とは

群知能シミュレーションにおける異方性の創発とその解析評価