Next:BIMが切り開く新たな創造性 第2回〜広島工大杉田宗氏インタビュー〜
(JIA東海支部機関紙 ARCHITECT 2022年9月号)
JIAアーキテクト連載企画
フローワークス合同会社 代表 横関 浩
1. BIMは設計に何をもたらすのか
BIMの本当のインパクト
BIMは手書きからCADへの移行が起きた時とは比べもにならないインパクトを設計にもたらすと考えられています。その最大の理由が、建物自体がデジタル情報に置き換えられ、データベース化され、建築をコンピュータが自在に扱えるようになったことです。設計業務が効率化は、BIM効果のほんの一部でしかありません。最大のインパクトはデータベース化された建築が、デジタル世界に接続され、無限の拡張性を手に入れたことです。
一般化するデジタルと貴重化するリアル
そのデジタル世界ですが、こちらも状況が変わってきています。現在考えられるデジタル世界とは「リアル世界がデジタル世界に包含」される世界です。デジタルで情報がなにでも繋がる社会では、もはやデジタルが当たり前に最初の経験となり、リアル体験は人の経験全体の「特別なもの」となりつつあります。音楽を聴く時、音楽のデジタルデータをデバイスでダウンロードして聴くというのが一般的で、コンサートなどの生演奏は特別なものになっているのと同じです。
リアルがデジタルに包含される世界。リアルから見ると世界がデジタルでただ拡張したように見える。
デジタル空間と建築の可能性
ではデジタル空間と結びついた建築はどのような可能性を手に入れるのでしょうか。デジタルデータ化された建築はその建築自体を「いかようにも」加工、利用することが出来ます。それは単なる図面上の数量拾いであったり、形の検討のようなものだけではなく、複雑なシミュレーションが行えるようにことを意味し、もっと言えば、これまでにない新しい考え方や、人が意図しないような検討や分析などが可能になることを意味します。更にはそれらで得られた結果をフィードバックすることも可能になるためオリジナルを改変・進化させることも容易になります。そして圧倒的に検討数を増やすことが可能です。
2. 創造性を読み解く
創造とは、これまでにない新しい価値を生み出すこと
新しいことをしたとしても、そこに価値や有用性がなければそれはただ新奇なだけで創造とはいえないということです。では一体どうすれば新しい価値を生み出す創造性を獲得できるようになれるのでしょうか。
「生物の進化と人の創造性の構造は似ている」
この一文だけでワクワクしないでしょうか。これは「進化思考」の著者太刀川英輔氏が「だれもが創造的になれる創造性の磨き方(2021.10.04)KOKUYO 」でネットに公開されている記事に書かれていることです。この記事は非常に面白いので是非一読することをお勧めします。
変異と適応の繰り返しが創造を生む
その中で進化=創造性には、変異(エラー)と適応(選択)の繰り返しで起きていると書かれています。
変異は偶発的に起きるもので、適応は必然的に行われるという生物の進化を人の創造性に置き換えて考えている点が非常にわかりやすく面白いです。であるなら、それが起きやすい環境を作れば創造的になりやすくなることになります。ちなみに、前述の意記事では変異を9個、適応を4個に分類しています。アイデアを考える上でのこの分類に似たものを、どこかで見たり聞いたことがあるのではないでしょうか。
変異(エラー):変量、擬態、欠失、増殖、転移、交換、分離、逆転、融合
適応(選択):予想(未来)、系統(過去)、解剖(内部)、生態(外部)
これらを活用すれば創造性が増すのであればすぐにでも活用したいですね。
3.次回に向けて
変異や適応を促すためにBIMができることは何なのか、最近話題のコンピュテーショナルデザインはそこにどういう働きをしているのか、実際にBIMを使いながら創造性を発揮している人はどう活用しているのか。次回からは、創造の出発点となる変異について考えていこうと思います。BIMを通して創造の何が見えるのか。回を進めることに、変異を起こし、別の形に適応してしまったりしてもどうかご容赦ください。よろしくお願いいたします。
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<参考情報>
構造化データと非構造化データの比較:完全ガイド – Talend
アイデアを量産する9のアイデア発想パターン「変異の思考」 | MANA-Biz
アイデアの質を見極める4つの観点「適応の思考」 | MANA-Biz
創造力とは|「フツーの人」が創造力を養う5つの方法 – Mission Driven Brand