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BIMスターターパックが変えるVectorworksのBIM設計環境

執筆:フローワークス合同会社 代表 横関 浩
(スタンズアーキテクツ設計事務所代表)

Ⅰ.今あるBIM導入問題を解決する

現在フローワークスではBIMスターターパックを国交省の補助を受けて事業にて開発しています。

BIM導入時の4大問題

この事業で行ったアンケートによると、BIMを導入した人は導入時に非常に多くの時間と労力を割いており、それが業務効率を低下させています。BIMで効率が上がらない、その原因を探ると以下がその大部分を占めます。

    1. CADの設定やBIMツールの使い方がわからない
    2. 正しいBIM設計ワークフローがわからない
    3. BIMリソースを準備するのが大変
    4. BIM設計を学ぶ場所や相談する先が少ない
BIM導入時の問題解決方法

当たり前ですが、これらを改善すればBIM設計の負荷は大きく軽減されることになります。であれば必要なものは以下の4つとなります。

    1. 多くの設定が終わっているBIM設計テンプレート
    2. 実務に即した効率的なBIM設計ワークフロー
    3. 実際に活用できるBIMリソースのセット
    4. いつでも自由にどこにいても学べる講習環境
スターターパックで問題を解決する

スターターパックはこれら4つ、BIM設計テンプレート、BIM設計ワークフロー、BIMリソース、オンデマンドBIM講習が一体となった、総合的にBIM設計をサポートするパックです。これによって今あるBIM導入時の問題を解決することを目指しています。

木造在来・木造伝統工法・鉄骨造の3つのスターターパック

このスターターパックでは、在来木造に加え、木造伝統工法と鉄骨造の3つのテンプレートが作られます。どちらも実際の実務に沿っているため、そのまま実践に使えるように考えられています。また、木造伝統工法に関してはこれまでなかったものなので、新しいBIMの可能性を見出せるのではないかと思います。

3月に完成予定で4月から新しいテンプレートの運用を開始しますが、1月から講習を受けた方向けにベータバージョンの配布を開始して行きます。

Ⅱ.BIMスターターパックが目指すその先

BIMスターターパックは、設計者への導入負担と実際での活用時の負荷を低減させますが、このスターターパックが目指すものは、それだけではありません。それについて少し書いておきます。

    1. BIM導入負担の軽減、活用時の効率化
    2. BIM設計における標準化と設計の自由度の両立
    3. 基礎的な使い方から高度な使い方までシームレスに接続させること
    4. 新しい時代の設計環境にリンクさせる
    5. 手軽に学び相談する場の提供
1、BIM導入負担の軽減、活用時の効率化

スターターパックはBIM設計テンプレート、BIM設計ワークフロー、BIMリソース、オンデマンドBIM講習が一体となっているので、導入がスムーズに行えます。多くの設計者も同じですが、私自身の経験でもBIM導入後の仕事の1/4ぐらいはBIMの設定やCAD自体の機能問題の解決に費やされています。このような負荷は無駄以外のなにものでもありません。徹底的に排除して、業務に集中するべきです。

2、BIM設計における標準化と設計の自由度の両立

設計手法は事務所ごとに異なり、非常に多様です。混乱とも言えるこの状況で、多くの設計者や事務所から聞くのがこの二つです。

「設計手法の標準化は作図作業の効率化を生むが、設計の自由度を低下させる」
「設計の自由度を確保するために、設計手法の標準化はしていないが、設計は非効率になっている」

その通りと思う人も多いのではないでしょうか。でもこのままでは良くないですよね。

「設計手法の標準化で設計業務を効率化すると同時に、設計を自由に行い建物の質を向上させる」

これがベストです。手法を標準化しても、設計自体は自由であれば良いわけです。つまりいいとこ取りです。

<標準化のメリットとカスタマイズ>
3年間の活動で手法自体は多くの部分を標準化しても、設計自体の自由度を制限することは少ないことがわかってきました。これまでも個別の手順や設定はしていたわけですから、それは標準化と同じです。ただ個別に設定した場合、全てのメンテナンスをそれぞれが行わなくてはならないので、大きな負担を伴うのがデメリットです。逆に標準を使うことで、基本部分での負担を低減し、その余力で設計の質を上げる、効率化することが可能になるとも言えます。

ただ、あくまでCADは道具なので、自分に合わせたカスタマイズしたくなる設計者もいらっしゃると思います。その点については同じ設計者として非常に気持ちがわかりますので、カスタマイズ可能な部分と触ることのできない標準化部分を明確にし、カスタマイズ可能な部分については自由にカスタマイズしていけるようにしています。ただし、その場合は、カスタマイズによる負担の増加と、それによってもたらされる効率化やメリットの総量を天秤にかける必要があります。

<3DBIM移行の壁>
3DBIM設計移行において設計者が感じる二つの大きな壁は、以下の二つです

    1. 複雑な設定や、立体モデルの作成など、新たな労力増加に対する嫌悪感や作業効率の低下
    2. 慣れたやり方を変えることにたいする不安や慣れるまでの効率低下

前者はスターターパックである程度解消できますが後者は心理的なものでもあるので、スターターパックを使って感じてもらうことが重要になると思います。それでも2D設計から3D BIM設計への移行は大きな変化であるため、それなりの覚悟が必要になります。なのでそういう方向けにはこのスターターパックをベースにしたもので、3Dを意識しなくても作図が行える2次元BIM設計スターターパック、もしくは2.5次元BIM設計スターターパックを考えています。これを使えば、知らないうちにBIM設計への門をくぐれるのと、将来、本格的に3DBIMを行うときにスムーズに移行ができます。

ちなみに初めから3DBIM設計を行う人たちは当たり前のように使いこなしています。慣れてしまえば3DBIMもそれほど難しい話ではないのだと思います。

手法としては標準化を行い、作業効率を高めて、自由に設計することがひいては顧客満足度を上げることになると思います。

3、基礎的な使い方から高度な使い方までシームレスに接続させること

BIMに限らず新しいシステムを取り入れるとき、そのシステムで可能な高度で先進的な機能に惹きつけられます。ですがそれを行うにはかなり熟練していないとできないことが多々あります。場合によっては特化しすぎて、汎用性を失い広く普及しないマニアックな機能になってしまうことも。それはせっかくの機能を無駄にすることになるので非常にもったいない話です。

そこでこのスターターパックは単なる基本パックではなく、その先、実施レベルでの作業、そして、高度で先進的な機能もこのパックの延長線上で使えるように考えられています。道具のために、やり方をあれこれ試してまた覚えてという無駄を無くし、設計に専念できる状態を継続的に維持することが設計者が望む姿と思います。

4、新しい時代の設計環境にリンクさせる

設計の環境は大きく変化をししようとしています。もちろん全てが変わるわけではなく、これまでの方法に新たな手法が加わるイメージです。BIM設計も当然その一つですが、もう一つがクラウドを利用した共同設計作業などの、場所と時間を問わない設計環境の普及です。複数の設計拠点がある、もしくは完全なモバイルワークによる設計作業など、これまでの設計事務所で設計をするという手法に加えて、新たな選択肢が生まれてきました。

この選択肢は、子育て中で場所も時間も限られた設計者や、場所が離れた設計者で余力がある人たちの眠っている非常に多くの労働力を掘り起こすことが可能になると同時に、人手がなく困っている多くの設計者にとって労働力の確保に道を開くものになります。

スターターパックではこのようなクラウドを活用した新しい設計環境に対応できるように組み立てられています。

5、手軽に学び相談する場の提供

優れたテンプレートがあったとしてもその使い方を学べなくては効果を十分に発揮できません。しかもテンプレートはワークフローやリソースとセットになっているため、理解の補助は必ず必要になります。しかし設計者は忙しく、講習会などのタイミングに合わせられるかどうかが問題になります。そこでこのスターターパックはいつでも学ぶことができるようにオンデマンドの講習をセットにしています。オンデマンド講習はそれぞれのタイミングでネット環境さえあれば自由に学ぶことができるため、忙しい設計者にとってはとても助かると思います。また忘れてしまったり思い出したりするときにも復習が簡単になります。

またオンデマンドの講習は印刷媒体に比べ年々進化するソフトの機能に対する追従性が高いため、常に最新の情報で学ぶことが可能になります。これによって今までBIM設計に移行したときの苦しみの一つが解決されると考えられます。

Ⅲ.BIMスターターパックが変える設計環境

スターターパックは設計者のためを考え、これからのBIM設計環境の変化に合わせて作られます。それはこのスターターパックを作っているメンバーの殆どが設計者であることと関係があります。つまり関わっているメンバー全員が普段から困っている事、こうあったらいいと感じることを、このパックに取り入れ、設計者の立場からいいと思うセットを作っているからです。そして多くのメンバーが関わることで、客観的な視点を持つことができて、多くの設計者にとって便利で汎用的な形になっていると思います。

このBIMスターターパックを使うことで、意識せずともBIMの恩恵得ることができます。そして、その時代のあたらしい標準に常に更新され続けるBIMスターターパックによって効率良く時代の変化に追従することが可能になります。その結果、設計者の設計環境がより良く変わること。これが最終の目的です。