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BIMが切り開く新たな創造性 第5回〜 村井一建築設計/東京大学生産技術研究所 特任助教 村井一氏インタビュー〜

BIMの3三分法の提唱者、村井一建築設計 / 東京大学生産技術研究所 特任助教の村井一氏にBIMと創造性についてインタビューを行いました。BIMが切り開く新たな創造性 第5回はその内容をお伝えします。

撮影:青木大

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JIA東海支部機関紙ARCHITECT連動連載企画
BIMが切り開く新たな創造性 第5回〜 村井一建築設計/東京大学生産技術研究所 特任助教 村井一氏インタビュー〜

スタンズアーキテクツ株式会社/フローワークス合同会社 代表 横関 浩

BIMの3三分法の提唱者、村井一建築設計 / 東京大学生産技術研究所 特任助教の村井一氏にBIMと創造性についてインタビューを行いました。BIMが切り開く新たな創造性 第5回はその内容をお伝えします。

横関:今日はBIMが切り開く新たな創造性についてお話を伺いたいと思います。どうぞよろしくお願いします。

村井:よろしくお願いします。

<BIMどう説明するか?>

私は前職での組織事務所でもそうですし、独立してからも、『BIMとは何なのか?』と聞かれることが多かったのですが、さっと答えられるものがなかなかなくてですね。もちろん用語としてはBIMとはワークフローであるとか、プロセスの変革であるとか、とても聞こえのいい言葉なのですが、それだけでは伝わらないかなと思っていました。

ちょうど東京大学生産技術研究所で野城智也先生の声がけではじまったBIMの研究会(RC-90「つなぐBIM」研究会)がありまして、いろんなBIMの取り組みの発表をしていただいたり、ディスカッションをしていました。研究会が数年たったところで、ひょっとしたらBIMの基本的な性質は三つぐらいに分けられるんじゃないかと自分の中で考えがまとまってきました。設計者として、情報の取り扱いにおける仮説をたて、研究会の中で様々な設計事務所、ゼネコン、メーカーさんのお話を聞きながら、これで概ね説明できるんじゃないかとまとめ始めたのがきっかけだったんです。

話は前後しますが、研究会では建築情報のとらえ方、集め方、使い方について参加者間で議論を行い、冊子*1をつくったりして活動をしていたわけです。その報告書の中では、BIMというのを10個のキーワードで切り取りました。BIMの費用対効果、もっと広義な効果の話をしていて、昨今はライフサイクルのお話だとか、BIMを支えるプレイヤーとはどういう人たちなのか、その後試していくためのパイロットプロジェクトはどうあるべきだとかですね。これは5年前の話なので内容は古くなってるかもしれませんが、話していたことの真意はあまり大きく変わっていないだろうと思います。ただ、これもBIMをファクトとして出てきたものを説明はしているのですが、BIMを仕組みとして取り扱おうと思った時には、この説明ではどうしても足りない部分があると思っています。それをこの3つぐらいの要素に分けると説明しやすいだろうということで作ったんですね。

<BIMの三分法>

『ビルディング』『インフォメーション』『モデリング』の3つの言葉を2つずつ足し合わせていくと『ビルディングインフォメーション』と『ビルディングモデリング』と『インフォメーションモデリング』の3つの概念ができる。実際BIMを触ったり、BIMではなく2DCADであっても、設計情報をまとめていこうとする人は、恐らくこの3つの概念を取り扱っているだろうと思います。つまり形状を入力もしくは記述し、その形状に付随する属性を与え、それらをきちんとつなぎ合わせて伝達するためのモデリング方針ですね。

BIMの三分法と情報の連携範囲

これは多分、BIMであれば集計表を作ることであったり、それぞれ入れた属性情報を組み上げて反映するということなんですけど、2DのCADでも、今までのいわゆる一般図があり、詳細図があり、仕様書があるというような関係を通しでチェックする図面計画が、BIM以前にあるわけです。この感覚は多分この3つとあまり変わらなくて、デジタルに実装したものがBIMであるということなんです。最初のこの根っこの概念をちゃんと共有しないといけないんです。形を作り、属性を与え、それらをモデリングしていくということですね。

横関:つまり構造はBIM以前と変わらないということですね。

<基本構造はBIM以前と変わらない>

村井:はい。本質的に変わらないということだと思います。あたかもその構造自体が基準から大きく変わるような話になりがちなのですが、根っこは大きくは変わらないんです。今日はその先の変革についてのお話しになるとは思うのですが、そこをうまく説明をしないといけないかなと思います。

横関:そうですね。今、お話を聞いてすごく大事だなと思ったのは、ついついBIMと言うと設計の仕方が根本から変わるとか、3Dから図面を切り出すだけでやり方が逆転するとかいうイメージで、障壁を作ってしまう可能性があるんですが、この説明なら『ベースは変わってないんですよ。ただやり方がちょっと新しくデジタルになっているだけですよ。』と。そういう説明の方が受け入れやすいかもしれないですね。

村井:日本語で分かりやすく説明しようとすると、『順番は変わるかもしれない。順番は変えられるけど、根本的な仕組みは変わらない部分があるんだ。』ということですね。ですから、BIMは設計プロセスの変革であると謳われがちですが、変わらないものは建築情報の基本的な仕組みだと思うんです。仕組みを支える順序は変えた方がいいかもしれませんし、仕組みを支える道具も新しいものを使った方がいいかもしれない。仕組みを支える人にも変化があるかもしれませんが、やっぱり建築物ってとても寿命の長い人工物なので、そこの仕組みには変わらない価値があるんですよね。

<実務の前線に立っている人には共感>

何かあたかも全てが変わってしまうみたいな話に捉えられがちなところに、ちょっと違和感があったんです。それをBIMの三分法で説明しているんです。第4回のインタビューに掲載されている古川さんも割と肌感覚の近い実務者なので、古川さんをはじめ色んなユーザーコミュニティでこの話をすると、やっぱり実務の前線に立っている人には共感してもらえますね。この3つの関係があるというところなんですが、1つには、技術を伝えていくために、どういうトレーニングをしたらいいのかということで、簡単な教材を自分でいろいろ作っていたんです。

例えば形状情報を伝えるのであれば、鉄骨造の一般的な納まりを押し出しとローテーションで確認をして、とにかく物の収まりをしっかり見ていこうとやったんです。構成要素を理解し、組み立ての手順を理解し、自分もどうしても若い頃には分からなかった物理的な仕組みをまずは教える。BIMを教えるのではなく、まずはビルディングモデリングだけを教える。次に例えばインフォメーションと言っても、いきなり仕上げ表、集計、面積などとやってもどうしても視覚的に伝わりにくいものになりますし、直感的に面白いとはなかなか思わない部分ですよね。

<環境とセットにする>

村井:マテリアルの管理って属性情報の大切な管理なんですよね。レンダリングを再現する時に意外とみんなこの手順を踏まないのですが、マテリアルの属性だけを最初に調整しようとしても、光環境を設定しないとマテリアルを与えても意味がないのです。まずは仮想空間の環境情報をしっかりと設定し、そこからモデルに与えられている質感を管理し、それを使いまわす命名規則だとか管理方法を考え、その上で、もちろんレンダリングはカッコよく自分で検証するのが楽しくあるべきなんですけど、その前段、『だから属性情報はやっぱりこうやって管理するのが大切だよね。』ということを伝えています。

横関:要は材料情報だけでなく、建物が存在する場所というか環境とセットにしないとというお話ですよね。

村井:そうですね。つまり質感をいくら与えても光環境を伴わなければということです。例えば素材の色彩もそうですし、反射率なども、どれだけの光環境でその反射率が与えられているのか調整しないと全て無意味になってしまう。その属性が反映されるメタな環境をちゃんと作らないといけないんですね。

横関:よく建築教育の中で、『周囲の環境もちゃんと配慮して設計デザインすること』と言われますが、こういうやり方をすると、それを絶対しないと再現さえできないわけですよね。

村井:そうです。そういう意味では、非常に教育する上ではいいかもしれないですね。

横関:なるほど。ありがとうございます。

<一番伝わりにくいインフォメーションモデリング>

村井:実は一番伝わりにくいのがインフォメーションモデリングなんですね。記事をいろいろ読ませていただいた中でも、日建設計の芦田さんが『当初のBIMはモデリングの「M」をいいものとしていたが、これからは情報の「I」を扱わなければいけない』とおっしゃっていますよね。これはとっても大切な観点で、「I」には2つの概念があって、ビルディングインフォメーションを入れただけでは「I」は生かされないんですね。必要な「I」が入っていないと使えない。つまり、窓というのはガラスの反射率の透過率がいくつという情報が入っている。情報は入っているんですけど、じゃあその透過率をもって、ここにどれだけの光が届くかは計算式をモデリングしないと再現されない。

情報は入れっぱなしではなくて、その情報をどうつなげていくのかですね。モデリングというと、どうしても形状のモデリングになりがちなんですけど、情報の世界では、インフォメーション、つまり情報のモデリングをしていくことなんです。つまり、情報という意味では、ここでただのモデルとして置くのではなくて、やはり形状も情報ですし、属性も情報である。それらの情報をつなげて意味を出していくということです。これは実はBIMの陥りやすい典型的な一つの罠というのが、ソフトウエアの中であらかじめ基本的な機能として情報がモデリングできてしまうものというのがありますよね。入れれば自分で考えなくてもアウトプットされるもの。これはソフトウェアの中で、実は情報のモデリングが自ずとなされているものです。

<自ら情報のモデリングをしないと前に進まない>

半分はそれでいけると思うんですけど、BIMは使う人それぞれが自ら情報のモデリングをしてあげないと前に進んでいかない側面もまたあります。これは実は手書きだとか、CADでも情報のモデリングというのは図面計画というかたちで考えられていた部分もあるはずなんですね。それが実際の情報システムを使いながら、これを捉えている。だけど、実はこの情報モデリングも例えば日影図を例にあげてみると、概念的には『今までこうやって計算していたよね。』という計算式や数値の設定がある。もっと言うと『日影図だって昔は手書きで書いていたよね。』と。その感覚はあんまり変わらない。大事なのは、この中で光環境シミュレーションをするには、どういう情報を持ってこなければいけないかということに設計者が意識的である事だと思うんです。

<閾値>

まさにビルディングインフォメーションの何が入っていないと、それができないかということは逆算して、ここから考えていくわけですね。ですから、計算に必要なパラメーターの抽出など、やはり何を入れなきゃいけないかということはそこから見ていく。一番大事なのは、入れただけでは意味がなくて、それを評価するための閾値などです。

横関:そうですよね。わかります。

村井:わかりやすい閾値というのが日影で、例えば2時間3時間という、いわゆる社会的にその閾値が設定されているものもあるが、デザインの中では色味をなぜこうするのかという、そこにも閾値があるわけです。そういうものを一つ一つ明確にし定義していかないとアウトプットできないということです。

横関:閾値というのは、後で出てくる創造性とかと結びついてきそうな気がするんですよね。

村井:そうですね。

横関:多分村井さんが何かを設計されるときに、やはり全てに対して閾値が存在するわけですよね。その個性が創造性につながるのかなと思っているので、次のこの話しの展開が楽しみです。

村井:トレーニングの話でわかりやすく3つに抽出したんですが、一つのソフトウェアでも3つの要素というのは、常にその作業を無意識にしているはずなんですね。これをどれだけ意識的にしているかというのは、また別の話になります。正直言ってそれをしなくても作業が成立していれば必要はないんですけど、 中には助けになる人もいるだろうと思います。

<この3つの概念をどれだけ拡張的に使うか>

もう一つは、創造性や拡張性というところにも近い部分だと思うのですが、この3つの概念をどれだけ拡張的に使うかというのが、BIMの可能性とよく話がぐちゃぐちゃになって伝わってきた10年だと思うんですね。一番狭義にはソフトウエアでパッケージングされた機能と書いてますが、BIMソフトウエアの話なんですよね。別にそれが悪いというわけではもちろんなくてそれを最小限の部分でやっているという話ですね。もう少し広がっていくと、建築を意匠・構造・設備と分けたときに、これはBIMを使わなくても違うセクションの人に情報の受け渡しをしますよね。

『荷重を伝えてください。』『部屋の気積を教えてください。』『それをもとに計算します』だとか。これが、部屋ごとの属性が出せますという話ですよね。つまり意匠設計者がBIMを使っているものから少し拡張されていますよね。もっと言うと『さっきのモデリングをお渡ししてレンダリングやってもらいます。』とかでも、それは拡張されているわけですよね。拡張の仕方にはいろいろとありますが、これのより広い概念としては建物の情報ですね。一つは都市の情報にどう受け渡していくかということをここで書いていますが、もっと根本的な話は建物の施設管理だとか改修。何かやるときには社会資産として建物情報が生かされるという部分がありますよね。そこにどう受け渡していくかというところはまだ宿題だと思うんですね。

<BIMの情報の同一性>

横関:BIMソフトウェアでパッケージされた機能というのは、技術的な基盤がそこにあって、それを使って何をするかが今、この一つ上の緑のところに来ていて、その成果が社会に還元されるところが一番外というふうに考えるといいんですね。

村井:そうですね。こちらの記事で書いた方が少しわかりやすいかなと思うんですが、まさに一番エッセンシャルな部分はBIMの情報の同一性ですね。不整合がなくなるというよりも、1個の情報を複数のアウトプットで利用・参照する同一性として捉える事が重要です。これが多分、一番根幹の狭い意味でのBIMのソフトウェアでパッケージングしていると言っている部分ですね。

そして、そこからこうした情報を分野をまたいで利用するというところが、その外にある。意匠・構造・設備の設計の解析も、しっかりデータでの受け渡しをどれだけやっているかというと、かなりそれぞれの設計者、設計組織によって受け渡しの仕方って多様だと思うんですね。Revitはソフトウェアとしては1個のソフトウェアで意匠・構造・設備とできるので、そこの分野間の連携をどうやるかということを考えているのですが、より広い領域をまたいだ連携の一例として、昨今、地理空間情報との間で建物の情報をどう扱っていくかというところの可能性が検討されています。

<BIMの陥りがちな課題>

村井:面的に整備される地理空間情報と違って、建物個別のより詳細な情報って参照しようと思っても情報はないというようなこともたくさんあるわけですから、BIMの情報をどう残していくかというところを今まさに国内で色々検討されている部分だと思うんです。一方で、これらが一つのBIMという言葉で話されて、先ほどあげたより狭義な話とのどれを話をしてるんだっけ、とわからなくなってしまうのがBIMの陥りがちな課題だと思うんです。BIMの三分法はその概念があるとともに、その3つの概念をどういう取扱いのスケールで関係づけていくのかという話をするためにも必要なんです。これがないとより混迷してしまうと思うんです。

横関:ひとりの人間が理解できる量を超していますよね。

村井:超しています。

横関:こういう整理がなかったことが今の混乱した状態を生んでしまったんだなというのはおっしゃる通りだと思います。

村井:これが絶対正しい整理だとは思わないんです。3分法が、少なくとも議論のテーブルを用意したということで、まずやらなければいけない部分だったんです。

横関:おもしろいですし、ちょっとすっきりしますよね。混濁していたものが分類分けされて理解がしやすくなるのかなというのは一つすごく大きい効果があると思います。

村井:まさに実務でやられてても1日の業務の中で3つの話をするかというと、なかなかないわけですよね。スタディーしているときは、どうしても形の話をしていますし、実施設計の終盤になってくると属性の話ですし、もちろんこの取りまとめをどうするというのはモデリングの話なので、今日どれやってんだっけという感覚ですね。

<建築の世界でずっとやっていたこと>

横関:ビルディングモデリングとビルディングインフォメーション、ここに関しては非常に皆さん理解はしやすいと思うんです。このインフォメーションモデリングっていう用語が多分、新しく技術的にやらなきゃいけないところ。例えば、BIMモデルの中の情報を吸い出して何かの形に変えなきゃいけない。先ほどグラスホッパーでプログラミングがありましたけど、あのような部分はまだ新しいところじゃないですか。そこがまだ馴染んでいないのかなと思います。

村井:これがまさにおっしゃるとおり新しいように見えて、実は建築の世界でずっとやっていた要素も含まれているですね。ただ、それが暗黙知だったんです。

横関:そういうことですよね。

村井:『君はまだ図面がまとめられないね。おさまってないね。』みたいな話もそうなんですけど、暗黙知だったんですね。個人の主観的な知識を経験的にキャリアの中で培って記述していくという世界で、それは同じ業界の中でリレーしながら伝承されてきた技術なわけですが、BIMはそこを形式知に変えていかなければいけない、変えることが価値であるということなんですね。

つまりは一個一個入力しなければいけないので、『やっといてよ』でできない部分があり、そこを複数の人たちが『どうやるんだっけ』を共有できるという部分がある。

1、BIMが建築に何をもたらしたのか。


村井:BIMが何をもたらしたかというところは、建築の技術や知識をデジタルな形式知に置きかえていくことだと思うんです。ただ、これをいきなり求められるので、使いにくいとか大変だってなるんです。でも実際大変なんですよ。同じ時間軸の中でいつか大変なんですよ。

横関:これが起きた理由っていうのはコンピューターを使うことですか?BIMということもあるかもしれないですが、コンピューターが理解できるデータに人間の感覚であるとか、経験値を一回変換しなきゃいけないんですよね。BIMはコンピューター上で動いているので、それと関係したんでしょうか。

<BIMは情報を単位化する作業>

村井:半分関係しますし、CADの時に求められたかというと、そこが一つの大きな違いだと思います。CADはコンピューターを使っていますが、いわゆる図面を電子化するツールだったわけです。ここが一つ大きな違いで、BIMは情報を単位化する作業です。つまり、CADの中ではこれは柱であるという定義は、シンボルとかそういうものを使えばできますが使わずにもできます。

ただBIMに求められるのは情報の単位化と構造化なんですね。ですから、これが柱である、窓である、窓はこの壁にネストされているということは構造ですよね。関係づけられるということが構造ですので、そこを非常に構造的な情報として取り扱っていくというのがBIMの大きな違いだと思います。今まで、なんとなくやっていたことなんですよね。

実は日本人が得意な部分でもあると思うんですが、明確に形式化言語化しない部分で調整していく能力が日本人は非常に高いと思うので、そこがやはり、何でBIMを使わないのかと言った時に、この形式置換をしなくても、なんとかうまくやっているというバランス感覚が背景としてあるかと思いますね。

横関:BIMは建築に何をもたらしたかというのは、そこの部分がやはり大きいですか。

村井:一番大きいんじゃないかなと思います。

2、BIMが建築をどう進化させるのか。


横関:そうやってBIMが建築に一つの新しい考え方をもたらしたとして、今までの建築はBIMがなくても日本人は能力が高かった。すばらしい建築物がいっぱいつくられてきた。ただ、BIMが建築をどう進化させるのかというのは、皆さんすごく気になっているところなのですが、そこについて少しお話をいただけますでしょうか。

<情報の構造関係をコンピューターに委ねる>

村井:進化を答えるのが一番私は悩ましいですね。進化があるとすれば、何をもたらしたかはおそらく先ほどの情報の単位化構造化なんですけれども、その情報の構造関係をコンピューターに委ねることができるようになったというところは一つ大きい部分だと思うのです。それが例えばどういうことかというと、建物の形状をどう取り扱うかという話で、例えば、建物の屋根の勾配をつくるといったときに、どういうルールでその屋根を作っていくかという関係を与えること。

その関係を今までよりもより複数のパラメーターを同時に扱いながら取り扱うことができるようになる。これは恐らく人の手でやっていてはできない部分。毎回手で書いていてはできない部分ですよね。ただ、何を作りたいか、どこが変数なのかという部分は先ほど言ったように単位化し、それぞれ定義しなければいけないわけですけれども、1度定義をすると、その関係というものを非常に自在に検討することができる。先ほどの日影や環境のシミュレーションもそうですね。

横関:なるほど。そうなると今のお話だと建築自体が突然何か変わってしまうというわけではなくて、設計者が例えば検討の量をすごく増やせると。そういうことによって建物の質が向上していくということでしょうか。

村井:そうですね。少し見方が違うのは、手書きの時も変わらないのですが、レンダリングなんかでも非常に建物を評価する視点というものがありますから、その建物でよいとするのかという部分は、実はラフな検討の時から視点はあんまり変わらない。つくりながら視点の発見はあるわけですが、例えばこのプロジェクトではレンダリングにゲームエンジンを使ってスタディを繰り返していますけど、この9つの視点を出すのに今までなら1晩じゃ終わらなかったかもしれませんよね。

スタディモデルの一例

<多様な関係の評価ができる>

村井:私も学生の時はこれ1個レンダリングするのに1晩くらいかけていたのが、今は2分とか3分の時間で9つの視点が描画出来てしまう。すると、設計内容を検証できることはもちろんなんですが、レンダリングの繰り返しの中で新たなアイディアの糸口を発見し展開していく事もある。これはつまり、情報を単位化して、その関係を委ねておけるから。やっぱり進化があるとすれば、単位化した情報によって、その多様な関係の評価ができるようになったことは大きな違いだと思います。

分かりやすく言うと、多分CADだけで描いていては立体の形状情報になっていないという部分もあるんですけど、やはり属性情報がそこにはないので、都度そのその関係構造を作らなくてはいけなかったということですね。

横関:そこで時間と手間がかかればかかるほど、やはり設計者としては疲弊していくという課題。もっと本当は考えれたかもしれないけど、やめてしまうということが発生していると。

村井:そうですね。わかりやすく言えば、一回関係付けてしまえば何回もそれを確かめられる。手でアナログにやっていると、毎回関係づけをするというところが大きな違いかなと思いますね。

横関:ちょうど今その話に来ましたので、次の創造性というところへお願いします。

3、創造性をどう生み出していくのか。


村井:私はBIMの中で関わっていて面白いのは、創造性はこういう仕事のチームワークだとかが一番の創造性だと思っています。

横関:その視点は今まではなかったですね。

<誰かの必殺技>

村井:なぜかというと、そうした情報の単位化や構造化をしない世界では、設計の検討や検証の技術が誰かの必殺技だったり、秘伝の技術として取り扱われる事が多かったのではないかと思います。その関係や知識の持ち寄り方が変えられるというところがとても大きいです。

横関:誰か一人がみんなに明らかにしてないデザインの感覚みたいなものがあると、その人に聞くしか分からない。ところが、それが明らかにされていれば、みんながそれについてチームワークでやれて、そこに新しいこと創造性が生まれるというお話ですそうですね。それはすごいですね。

村井:これは私の体験談でもあるのですが、やはり実務者として設計のキャリアをスタートした時って分からない事がとても多いわけですね。例えばいきなりカーテンウォールの設計をやるといってもわからないわけです。面白いエピソードとしては、BIMは当時はなかったですけど、私はモデリングがちょっと得意だったので、おさまりのわからない外壁や窓については事前にモデリングをしてみて、経験のある設計者との打ち合わせA2版やA3版でレンダリングをして持参する。するとそこに一緒に、ここは収まりがどうだとか書き込みながらのコミュニケーションが生まれるんですね。。仮でもいいからモデリングをすることで、これだけ知識や技術のある人からいろんなことを習得できるんだって思ったんです。

横関:なるほど。

<技術を知識につなげていける>

村井:うまみを感じ取ったというか。これが同じように手描きのスケッチだけで会話していては、成立しなかったコミュニケーションがそこではできていく部分がありましたし、逆にいうと、BIM自体はその方は入力されるわけではないですけども、プロジェクトの中で、ちゃんとその技術を知識につなげていけるという部分は、とても創造的な部分ですね。

横関:ありがとうございます。そういう風に新しいチームで何かを築き上げるということができるようになってきたとして、いろんな素晴らしいアイディアはたくさん出ると思います。これを実際に社会の中に接続させ実装していくと、一番もったいないなと思うのは、例えば村井さんがすごくいいものを作った。ただ、それが村井さんの作品だけで留まっていてはややもったいないかなという気がするんですね。

4、社会とどう接続させるのか。


横関:その考え方ややり方っていうのが社会の中に広まっていく。そのためにはどうしたらいいのか、どう接続させるのか、というところで何かアイディアがあったら教えていただきたいです。

<とにかく会話の場をもっと作るべき>

村井:社会性の部分では、BIMに関していうと、とにかく会話の場をもっと作るべきだと思います。というのは、上手く行ったことを発表するのは十分やられてきたと思うんですね。それもあるんですけど、同じように上手くいかなかったこと、もしくは上手くいかなかったところをこうやれば改善できるだろうというコミュニケーションが生まれるのがツールの良い部分だと思うんです。

やっぱりそこの会話が足りないんじゃないかなと。今の社会、誰かがそれを準備してくれる、作ってくれるっていう期待ももちろんある部分だと思うんですけど、もうやってみたことをもっとコミュニケーションしていく場だとか姿勢というのがまだ少し足りてないかと思います。

横関:なるほど。やっぱり建築というのは金額も大きいし、責任も大きいのでネガティブなことはあんまり話したがらないところもあって共有をあんまりしたくない、公にしたくないかなと思うんですが、実際設計者としてこうやってお話をさせていただく時には皆さん、そういう話にめちゃくちゃ熱が入る。そういう情報の共有というのが今後BIMでもされていくと、リスクマネジメントみたいなことが結果、社会をよくしていくだとか街並みをよくしていくだとか、建物をよくしていくというふうに繋がるとお考えですね。

村井:そうですね。それができるといいですね。どうしてもそういう意味でも0ベースで、どうだこうだという話はなかなか難しいと思うんですね。BIMの三分法を話しているとおもしろいのは、『ここはうまくいってるんだけども、ここはうまくいっていないよね。』というような話がしやすくなるんです。BIMというのを一つの概念だと捉えると、うまくいっていない所があるとダメだみたいなお話になると思うんですけど、どの側面でうまくいっていないかが捉えられないのはより大きな課題であると思うんです。

<課題を人の労力や時間で頑張って解決している>

今まではその課題を人の労力や時間で頑張って解決しているんだと思うんです。どうしてもその建築の労働時間の話もそうですし、情報を度重なり直さなければいけないというところもそうですよね。そういう部分をさっきの3つの概念で分けていくと、『ああ、今これは情報のモデリングはうまくいってない。でも頑張って考えて入れてるんだから課題はどうアウトプットするのかなんだ。』とか、『アウトプットや処理は上手に受けられたけど、結局何を作りたいかどうしたいかはとか決まっていないよね。』とか。

形状情報の話なのか、属性情報の話なのか、それらの情報モデリングの話なのか、なにが足りてないのかを会話するために3つに分けていて、会話が始まりやすいんじゃないかと思いますね。

横関:ソフトウエアの問題を見つけ出すやり方と似ていますね。どこに問題が存在するかまとめてしまうと、どうしてそれが問題なのかわからない。問題を見つけやすいという意味でも分けるっていうのはすごくいいですね。

技術の透明性という部分は背を向けてはいけない>

村井:先程横関さんがおっしゃった、抱える責任が大きいというのは、まさにそのとおりだと思うんです。ですから、我々プロフェッショナルとしてそれを責任をもちろん全うしなければいけないわけですけれども、一方でこういう技術の透明性という部分は、やはりそこに背を向けてはいけないと思ったんです。

やっぱり技術の透明性というのは、一つのソフトウエアがブラックボックスにならないようにする部分もありますし、あとはやはり世代を超えて浸透していかなければいけない。伝承できてもどうやって、この技術は成り立っているのかという透明性をBIMというフィルターを通してつないでいけるという可能性があると思います。

横関:なるほど。ちょっと意地悪な質問かもしれないんですが、実際私どもがこの5年間、設計者の方にBIMソフトウェアの使い方を教えてきてわかったのは、皆さんすごく忙しい。特に企業設計室の方とかですね。新しい技術を覚えるとか開発するなんてことに時間が一切割けない。

そうすると今からBIMがいろいろなことが可能になってくると思うんですが、そういう技術を自ら覚えてやるというよりも、中の設定がどうなっているかなんて関係なく、ボタン一つで同じ環境のシミュレーションができるような状況も生まれると思うんですね。そうすると今言われたこととややズレが発生するように思うのですが、その辺はどうお考えですか。

<負荷のかかる場所をコントロールできる>

村井:多分ですね、BIMという言葉とフロントローディングという言葉がしばらくセットで言われてきたと思うんですね。感覚的にはフロントローディングというのは一つの解ではあるのですが、それだけではないのかなと思うんです。たぶんこうした情報を使うことによって、 ローディング、つまり負荷のかかる場所をプロジェクトの特性に応じてコントロールできるという点が重要なのではないでしょうか。

おっしゃるとおり、今の環境の中では明日からその改善ができるかというと難しくて、必ず起きる話だと思うんです。そこは3つ目にお話しした創造性の、ここを変えていかないと、それは組織の中のチームの変遷かもしれませんし、先ほどおっしゃったような環境シミュレーションの話であれば、どの情報が必要なのか、それを一般的なやり方もありますし、少し特殊な解析の仕方なのであれば棚卸しするということも重要ですし、それはひょっとすると、組織の外部から誰か来ていただいて翻訳してもらうということも一時的に必要かもしれません。

<翻訳者のような立場の人を位置づけていく>

もしくは組織や分野の中で、翻訳者のような立場の人をうまく位置づけていく必要があるかもしれない。ここがおそらく質問に対しての一朝一夕にはいかない部分だとは思います。変革が必要な部分ですね。実際のプロジェクトや組織の中には、実はそれを何らかのかたちで担っている方っているわけですよね。だから、その主体を明確に位置づけすべきだと思いますし、そのためにも最初に行った仕組みとしてどうそれを変えていくかという部分から取り組まなければならないですよね。

<AIについて>

横関:ありがとうございます。最近追加で皆さんに聞きたいのがAIです。いよいよAIが身近になってきたなという感じが今するんですけれども、今BIM自体でも、かなり大きな変革の一つになるとは思うんですが、AIが入ってくることに関してちょっと内容からズレるかもしれませんが、何かお考えがあれば教えてください。

村井:そうですね。本当に今、動きの大きい話なので、ここまではできないだろうと思っていたことができるようになるだろうと思うんですね。ただ考えというか、建築という人工物の中では、繰り返し生産のように見えて非常に個別性のある人工物に対して、有用な部分と逆にやっぱり人が活きてくる部分もあるんじゃないかなと思います。

横関:なるほど。

<BIMの話と似ている>

村井:これはBIMの話とも多分似ていると思うんですよね。建築物は全部個別生産であるって捉えてしまうとそうでもないですよね。例えば、照明器具とかは量産されているものですし。

横関:面白いなと思うのは、例えばここの設計は原さんですよね。なんとなく原さんが作ったものは、みんな共通性を持っている。1個1個は全部個別性を持っていて違うんですけども、でも共通性を持っているみたいな2つの軸があるじゃないですか。そういうところも踏まえて考えるていくと、AIがやろうとしていること、AIで拡張されることっていうのもうまく使えそうな気もするなと思うんですね。

<AIでできない部分の価値を高めてくれる>

村井:そうですね。これはこうあってほしいなっていう姿ですけど、AIだからできる部分と、逆にAIだからできる部分がAIでできない部分の価値を高めてくれる、そういう未来だといいなと思います。

横関:なるほど。第2回のインタビューでは、広島工大の杉田先生が面白いことをおっしゃって、保育園の設計を依頼された時に2万パターンの自動生産をさせて、それを最終的にいろいろな評価軸を作って最後、普通の四角い南向きの建物が一番いいという評価が出てしまったというようなお話をしていて、みんながずっこけたという。いっぱい出してきても結局単純にそれだけじゃないんだと。

さっきの閾値によって選ばれたものが実は最適な解ではなくて、ちょっとそことはずれたところ、少し閾値を下げたぐらいなところに、実はすごく人間として魅力のある空間ができたりするとか、そういう部分に関してはやはり人間が最後まで選択をしなきゃいけない。そこの部分が残されるという話をされていたんですね。それはどう思われますか。

<大事なの閾値と評価>

村井:その話とてもよくわかるのは、やっぱり最適化の話というのはシミュレーションもそうですし、形状の最適化という話の中で、やっぱり大事なのはさっき言った閾値と評価だと思うんですね。生成はできるんだけれども、何によってそれを評価するのかという話。

評価というのは、実は大事なのは、開始したときの評価の軸とは違う評価軸から見つかるってことだと思うし、これはコンピューターに頼らずとも、模型をつくるというのは、できるものを確かめるんじゃなく、こういう評価軸もあるんだという、実はそれを抽出しているんですね。

ですから最適化もそうですしもAIも、そうしたところをコンピューターと一緒に考える訓練、人が持っている評価軸というものがアプリ化されてくるというところが、先程の暗黙知と形式知になってくる。例えば模型スタディをしている際に出る『これ、何か良い抜け感だよね。』みたいな話って、なかなか言語化しにくいですよね。

横関:そうですね。

村井:そういった思考のプロセスや価値観を今一度考えることをのアシストをしてくれるところに期待があるように思います。

横関:わかりました。ありがとうございます。では、最後にこれからBIMをやろうと、今ちょっと足踏みしている方々にBIMをやった方がいいよと伝えるならどんなふうに伝えますか。

<これからBIMをやろうとしている皆さんへ>

村井:使い方が見つけられるものだと思うんですね。BIMってこういう風に使うんだとか、こういうやり方が正しいんだっていう部分はいろんなもので先入観ができてしまうかもしれませんけれども、ひょっとすると、まだ使い方を一緒に見つけられるのかもしれない部分があると思います。だから、さっきの話の中で、もしかすると皆さん、その仕事の中で皆さんが持っている仕事の価値っていうものをBIMを使って新たに発見できるかもしれないですね。

横関:夢を感じますね。

村井:最初は、うまくいかないかもしれないし大変かもしれませんけど、それをやらないと、例えば横関さんが持っている技術ってこういうことなんだ、ということが伝わらないかもしれませんよね。建設業界の中にまだある価値を一緒に伝えていくための発見ができるかもしれない。

横関:その発見の旅に一緒に出ましょうと。非常に面白い内容で示唆に富んでいたお話でした。本当にありがとうございました。

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第1回:BIMが切り開く新たな創造性 第1回〜プロローグ〜
第2回:BIMが切り開く新たな創造性 第2回〜広島工大 杉田宗氏インタビュー〜
第3回:BIMが切り開く新たな創造性 第3回〜日建設計 芦田智之氏インタビュー〜
第4回:BIMが切り開く新たな創造性 第4回〜久米設計 古川智之氏インタビュー〜
第5回:BIMが切り開く新たな創造性 第5回〜 村井一建築設計/東京大学生産技術研究所 特任助教 村井一氏インタビュー〜
第6回:BIMが切り開く新たな創造性 第6回(最終回)〜零三工作室 東福大輔、山上建築設計 山上健 座談会〜